メキシコ0-2日本 1968年メキシコオリンピック銅メダル

 日本のメンバーは、ゴールキーパーが横山、スイーパーに鎌田。その前にディフェンダー3人、左から山口・小城・片山、中盤は中央に森、左に渡辺、右に宮本。左ウィングに杉山、右ウィングが松本。センターフォワードが釜本。
 後のサッカー界重鎮が何人かいる。Jリーグ草創期に監督を務めていた人も多い。

 横山のゴールキックはハイパント。とにかく高く蹴る。低く蹴れば真後ろからボールが飛んでくるので味方はコントロールしにくいのに対して、敵は正面からボールが飛んでくるからヘディングしやすい。高く蹴れば蹴るほどボールは真上から落ちてくるから条件がイーブンになる。そういう考えが当時あったのだろう。ゴールキーパーのロングフィードから攻撃を始める、という発想は当時無かったようだ。
 ディフェンスはマンツーマン。その後ろに鎌田が控えている。ラインディフェンス、ゾーンディフェンスとかオフサイドトラップとかは後の時代の発明だ。

 前半の日本は堅守速攻。相手陣内ではチェックをかけない。自陣にボールが来たらマンツーマンで厳しく守って奪ったら杉山を走らせる。釜本はポストにもなるしサイドに流れることもある。
 ボールを取られたら一目散で戻る。攻守の切り替えが速い。パスワークやドリブルでメキシコはどうにかしようとするが、日本のディフェンダーをかわしてゴールマウスが目の前に来ると、スイーパーの鎌田がすっ飛んできてボールをかきだしてしまう。

 先制点は18分。杉山が斜め左後ろからクロスを入れて釜本が決めた。メキシコの4番が釜本についていたのだが、杉山が蹴っている時は、上がっていた渡辺を警戒していたらしい。杉山のボールは4番の頭を越え、釜本は4番から離れてフリーになっていた。伝説の杉山―釜本ラインによる得点だ。
 釜本によるとこのシュートはミスキック。強いシュートを打とうとしたがぼてぼてになり、メキシコGKも強いシュートが来るものと思っていたらぼてぼてで虚をつかれたという。結果オーライ。
 シュートが決まって釜本が手を挙げたポーズは日本サッカーの歴史を語る時にお馴染みのもの。何度も見た。でも今まではそれしか見ていなかった。このシュートシーン以外はまさに幻の映像。当時釜本24歳。現在69歳。

 36分、メキシコは二人を交代させた。当時の交代は一試合に二人まで。現在でも前半二人交代というのは珍しいが、当時ならなおさらだろう。日本のマンツーマンディフェンスにメキシコが手を焼き、監督が相当苛立っていたのではないかと推察される。なお、日本は誰も最後まで交代していない。

 日本の二点目は39分。杉山をマークしていたメキシコ選手が滑って転び、杉山がフリーになってバイタルエリアの釜本にパス。釜本は前に、蹴った時は1メートル半くらいか、ディフェンダーがいたが構わず強シュート。ゴール左隅に決まった。人が前にいると途端にシュートが不正確になるフォワードが多いが、釜本の技術と太い神経に感心させられた。

 後半はいきなり日本にペナルティエリア内のハンドがあってメキシコがPKのチャンス。しかしゴール右に蹴られたボールは弱くゴールキーパー横山にあっさり止められた。
 その後の日本は専守防衛。ボールはメキシコに持たせてマンツーマンで守り続けた。一般には守ろうとして守りきるのはそれほど簡単ではない。だが、この時のメキシコはボールをずっと持ち続けていてもほとんど決定機が無かった。83分の19番エルナンデスがフリーでシュートを外した場面くらいか。それだけ日本のマンツーマンディフェンスは厳しかった。日本の陣内でメキシコ人がボールを持つと、その前には必ず日本人がいた。

 メキシコの観客たちはブーイングしたり日本コールをしたり苛立ちを募らせていた。前述のエルナンデスが外した直後からは貸し座布団を投げ始めた。観客に見捨てられたメキシコ代表はそのままゲームセットを迎えた。座布団投げで中断があったにも関わらずロスタイムはなかった。

 中一日6試合めというのに、目を見張るべきは日本選手達の走力。走って走ってマンツーマンディフェンスを完遂した。その走行距離はおそらく現代の、いわゆる人もボールも動くサッカーと比べても遜色がないだろう。クラマー氏が「私は、かつてあれほど死力を尽くして戦う選手達を見たことがない」と言ったのはこの点を指していたと思われる。

 もうひとつ特筆すべきは、日本の戦い方だ。日本は古くからパスサッカー、と言う向きがあるが、この試合の日本代表は相手にボールを持たせて隙を突く戦いを徹底していた。先月宮スタで行われた日本-ウルグアイ戦で言えば、ウルグアイの戦い方に似たところがある。
 日本代表は攻撃的なサッカーや守備的なサッカー、ボールを持つサッカーやボールを持つことに拘らないサッカーを、その時その時に選択してきたのだ。日本サッカーの伝統である何々、という表現には眉に唾をつけて聞いたほうがいい。このメキシコ戦でもっとも強く感じたのは、そのことだった。

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