今頃、「ジャパン」はなぜ負けるのか、読了

 今頃読了と題に書いたのは何回目か。もうシリーズものだ。私は売り出されてすぐに本を買う気にならない癖があるから、こういうことになる。
 この本は共同著者の一人がサイモン・クーパーなので購入した。名著「サッカーの敵」以来、サイモン・クーパーの本は読むことにしている。彼は世界中どこにでも行き、山ほどの人物と会ってインタビューをしている。彼の書く文章には、インタビューされた人間の息遣いまで聞こえるようなリアリティがある。

 この本は2010年3月に出版された。ネットを通して購入したのは同年9月だが、まだ初版だ。ワールドカップイヤーであるから、それを当て込んでいただろう。題名も挑発的だ。だが、それほど売れていないようだ。
 実際は題名で損をしている。W杯が終わった今、この題名で、この本を買おうとする日本人がそういるとも思われない。
 英題は Why Japan Lose. そのまんまである。全14章だが、その第二章に日本がなぜ負けるのかが、考察されている。この第二章は日本版発売の際に書き下ろされたものだ。違う国ではこの章が無く、違う題名で売られている。
 この第二章を読んでみたら、日本をこき下ろしてはいなかった。むしろ、「日本は今後勝てる可能性がある」という内容だった。そんな何か希望の持てる題名にしていたら、南アW杯が終わった今も売れたのではないか。

 副題は「経済学が解明するサッカーの不条理」。実際には、経済学というより、統計学に近い。
 サイモン・クーパーの共著者であるステファン・シマンスキーはスポーツ経済学者であり、スポーツに関する山ほどの統計を相手にしている。彼とサイモン・クーパーがトルコで邂逅し、タッグを組んだ。
 だからこの本で議論されている問題それぞれの背後には、膨大なデータがある。例えば、ホームアドバンテージとは何か。ホームで試合をすることで、何点分有利になるのか。膨大なデータから導き出されている。

 そんな膨大なデータの解析を通して、筆者らはサッカーに潜む事実を暴いていく。
 例えば表題の、「ジャパン」はなぜ負けるのか。ジャパンは人口も経済も勝つのに申し分無い。足りないのは経験だ、と筆者らは説く。特にヨーロッパの西側にあるサッカー中心区域に比べて、日本はネットワークから離れている。だから国際大会の経験が足りないという。

 この結論は南アW杯から帰国した岡田監督の発言、

「あのW杯での試合を年間5試合、6試合、南米予選やヨーロッパ予選のような試合をやっていれば、彼ら(日本代表選手)は必ず伸びます。もっともっと、そういう厳しい環境での試合、プレッシャーの中での試合、親善試合でなくて相手が本気でやってくる試合、そういうものをたくさん経験させてやりたい。それがあれば彼らは必ず伸びると感じました。」

と酷似している。
 膨大なデータを駆使して得た結論と、南アで実際に戦った指揮官の言葉がそれほど変わらない、というのは記憶してよいことだろう。

 日本代表以外にもたくさんの問題が議論されている。例えば私が興味深かったのは、「イングランドもなぜ負けるのか」だ。そこにはイングランド代表選手の父親の職業一覧があった。見事に労働者ばかりだった。
 イングランド代表に中産階級の子が少ないということは、得るべき才能がサッカーから失われているということではないか。
 とすると、Jリーグユース、クラブユース、高校卒、大学卒、海外武者修行、JFL上がり、と様々なルートがある日本は、才能を拾い上げるという点では良い環境なのかもしれない。そんなことを考えさせられた。

 他にもある。「民主国家の首都が振るわない理由」などと書かれると、Jリーグとの比較を思わず始めたくならないだろうか。日本の首都チームはJリーグで優勝したことがない。ヴェルディは東京に移ってからは優勝していないし、FC東京はナビスコ杯しか取っていない、などと。

 というわけで、題名が気に食わないから買わなかった人。それはただの食わず嫌いと思う次第である。そんな人が手に取る価値がある本と推奨する。

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