今頃、「28年目のハーフタイム」読了

「28年目のハーフタイム」は、金子達仁氏が出した初めての単行本だ。初版は1997年。金子氏の出世作であるとともに代表作でもある。
 1996年のマイアミの奇跡、すなわちブラジル戦勝利を為した、アトランタオリンピック代表について書かれてある。
 この本は有名な本で、読む前からどんな内容か聞いていた。それで読んだ気になってしまい、これまで読まないでいた。しかし、金子氏に対して何度か批評(これこれこれ)をしてきた自分が、彼の代表作を読んでいないというのは恥ずべき事であろう。古本屋でたまたまこれを見つけた時、「そろそろ読めということか」と私は思い、迷わずレジに向かった。何事かの運命を感じたと言ってはおおげさか。

 この本で書かれているのは対立だ。マイアミでブラジルに勝利した日本代表は、実はまとまった集団ではなかった。攻撃陣と守備陣との間に確執があった。それはグループリーグ第二戦のナイジェリア戦ハーフタイムに、攻撃を促した中田英に対し西野監督が激昂する、という形で決定的な亀裂を生んだ。
 西野監督、中田英、前園、川口、敗れた側ブラジル代表のアウダイール。彼ら一人一人の心情を描き出すことで、金子氏はアトランタオリンピック代表の真実を暴きだしていく。

 そう、金子氏は対立を書いていた。
 この執筆スタイルは、その後も続いていく。例えばドイツW杯でも、共著の「敗因と」で代表選手達の内部亀裂を描いていた。
 だがその時すでに、金子氏の文は内部亀裂を描くことに留まってはいなかった。彼は対立項のないところにも対立を作ろうとした。世間と自分とを対峙させるようになったのである。
 日韓W杯ベルギー戦。2-2の点の取り合いになった試合にサッカーファンは興奮した。それを感じ取った金子氏は対立項を提示する。「低俗なポルノのような試合」と。

 南アW杯でも彼は世間に抗った。週刊朝日の連載コラムで、金子氏は何度も自分と世間を対立させた。
 世間では日本代表の勝利を願っているだろう→負けろ、日本。未来のために
 カメルーン戦の勝利に喜んでいるだろう→日本代表の内容は最悪だった
 オランダ戦の敗戦にがっかりしているだろう→1点を取られてからの日本は素晴らしかった
 阿部をアンカーに置いたシステムの評価は高いだろう→俊輔がこのままでいいはずがない
 代表選手らが海外移籍するのは喜ばしい→Jリーグの空洞化を憂える

 世間に抗っているのだから世間の反発を浴びるのは当然だ。彼はもちろんそれをわかっている。非難を浴びれば浴びるほど、自分と世間を対立させたことに成功した、とむしろ喜んでいるのではないか。
 もしかすると「低俗なポルノ」と書いた時、金子氏は大多数の人間から批判を浴びる快感に目覚めてしまったのかもしれない。 
 対立に中毒し、対立を書かずにはいられない。そのためには自分を対立項にすることも、世間の非難を浴びることも厭わない。それが現在の金子氏である。

 その萌芽は、アトランタオリンピック代表の内部対立を書いて成功した、この「28年目のハーフタイム」に見られるのだ。

この記事へのコメント

デニス
2010年08月20日 18:42
「28年目の~」僕は近所の書店で確か予約して買いましたよw
凄く感動したのを覚えています。今も古い本をまとめた段ボールの中にあるはず。

でも今の金子氏には多くのサッカーファン同様ウンザリしています。
この人はある対象物を何か別の物と相対化して意味の無い比較論を書くしか能が無いんですよね。ほんとワンパターン。
意味のある比較論ならまだしも、サッカーと柔道をくらべても全く無意味だし、やたら日本と韓国とをくらべて自虐的な事を書いてるし、まぁこの人が噂通りアレなら自虐的って言葉は当て嵌まらないですが。
日本サッカーがお手本とすべき国は韓国じゃないでしょうに。

彼がNumberで書き始めた初期にあった小倉隆史の事を書いた短編は素晴らしかったんですけどね。それ以降は全く駄目ですね。寧ろ日本サッカーの足を引っ張ってる位で(笑)
水谷秋夫
2010年08月20日 22:23
私自身は金子さんの悪口を書くつもりはないし、書いたつもりもないのです。金子さんの文章がつまらなかったら読まなければいいだけの話ですし。
「28年目の……」を読んだ時期がたまたま南アW杯直後だったので、彼の変わった部分、変わらなかった部分について見えたことを書いてみたくなりました。いや、皮肉ではなく、週刊朝日の短期連載には感心していました。ここまで読者の神経を繰り返し逆撫でできる人がいるのかと。「28年目の……」から13年。金子さんも不思議な芸風になってしまったものですね。
デニス
2010年08月20日 23:30
読者の反応を予測して意見を変える、あまのじゃくな態度をとるっていうのはポジショントークって言うんですかね?そのせいで軸足ブレブレ支離滅裂二枚舌って批判されてますけど。
彼の場合それが商売上の打算だとか、返ってくる批判が快感だとかっていうより、単にそれしか出来ないんじゃないかなと感じます。多分悪意は無く天然なんだろうと思います。
でも今のままじゃ敵をつくるだけですよねぇ。
水谷秋夫
2010年08月21日 07:54
天然ポジショントーク。そうかもしれませんね。
読者が何人敵になっても本人はむしろ喜ぶだけかと。でも仕事はあるみたいですからあの業界の泳ぎ方はうまいんでしょうね。今回は週刊朝日に相当抗議文が行ったみたいなんで4年後の週刊朝日連載は無いかもしれませんが。

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